60代おひとりさま、つれづれなるままに

浮草と故郷
(5日の記事が、6日に操作ミスで消えてしまい、記憶を頼りに書き直しました。お読みいただければ幸いです)


アカデミー賞3部門を受賞した映画「ノマドランド」を見に行った。

ノマドは遊牧民のこと。
主人公ファーンは、仕事も家も夫もなくし、車で短期雇用の旅に出る。


同じ境遇の人たちとの暖かい交流と、自然のすばらしさに魅了された。
過酷な労働環境なのに、悲惨さはない。
砂漠だったり、雪原だったり、殺伐とした風景なのになんと美しいのだろうか。


ファーンと、彼女を好きになる男性の2人以外は、本物のノマドだというから驚きだ。
ドキュメンタリーではない。みな演じているのだ。


若い頃、私は引っ越しが好きだった。
デラシネ(浮草)、ジプシー、遊牧民という言葉に、ロマンをかき立てられた。


高校卒業後、東京の大学に進学し、そこは半年でやめたのだが、短い間に一度引っ越した。
結婚してから、転勤族でもないのに、私の希望で何度か引っ越した。


ひとところに長くいると、飽きてくる。
息が詰まりそうになる。


このマンションに住んで17年。
今までの人生で一番長く住んでいる。
気に入っているし、体力・気力も衰えたから終の棲家につもりだが、映画を見たあとはやはり引っ越しをしたくなった。


日本に、ノマドのような人はいない。
農耕民族だから、定住が基本だ。
歩き巫女(みこ)、ごぜ、遊行上人(ゆぎょうしょうにん)など、放浪する職業は、昔からあった。だが彼らは芸能者だ。
肉体労働をして放浪するノマドとは違う。


だから、大陸の遊牧民に憧れるのだろうか。



一方で、故郷への思いも強くなった。

最近の新聞で知って購入した本。
「混浴温泉世界」というアートイベントの仕掛け人の著作だという。


15年前、実家と絶縁して以来、足を運ぶことがなくなった。


一度だけ、父方の伯父が重態になったという知らせが巡り巡って耳に入り、見舞いに行った。5年以上前のことだ。


子どもの頃住んでいた長屋の跡、駄菓子屋の跡がわかった。
缶けりをした路地はそのままだ。
ネオン街が思い出されて懐かしい・


翌年、伯母もなくなったと、風のたよりに聞いた。
両親より私をかわいがってくれた人たち。


祖母が営んでいた芸者置屋を改装した伯父の家は、まだあるのだろうか。